ファインネットワールド

           

【エッセイ71】元旦にちょっと遠くまで考えてみた

 

「ほら、もっと遠くを見て。近いところばかり見てるとフラフラするよ」

学生時代に免許を取るために教習所に通った。
が、決して運動神経が良いとは言えなかった僕は、中々合格をもらえず、路上練習に出るまでに何度も落第し、最終試験に合格するまでにも半年かかった。

あとから入ってきた年下の子たちがどんどん追い抜いていく。
まあ、若い子は運動神経もいいだろうから、良しとしよう。

でも、いかにもどんくさそうなおばちゃんが(失礼!)さっさと合格して次の段階に進んでいくのを見たときは、かなり凹んだ。

試験に落ちて、トボトボと教習所から駅まで帰る道。

一歩、教習所を出ると、幹線道路にはビュンビュン車が走っている。

「あぁ、オレは一生、運転できないのかなぁ……」

弱気でネガティブな自分になる。

「なにも特別なことをしているわけではないだろう。だって、こんなにたくさんの人が運転できているわけだし」

そう自分で自分を励まそうとしても、弱気の虫が頭の中を駆け巡る。

それでも、学生にとっては結構な大金を払って教習所に通っているわけだから、「オレには運転は向いてないよ」といって、みすみすお金をドブに捨てるわけにもいかない。

教習所に通う日々が苦痛で苦痛でしかたなかったが、あるとき、教官の一言で運転がグッと上手くなった。

 

「どこを見ながら運転している?」

男性の教官にそう聞かれた時のこと。

(いや、前を見てに決まってるじゃん。後ろ見ながら運転はしてないよ)

と、思わずツッコミそうになったが、そんな余裕はもちろんない。

教官が続けて言う。

「遠くを見たら、車は安定するよ」

そう言われてハタと気づいたのだ。

僕が見ていたのは、ボンネットのすぐ先だった。

何かあってもすぐに止まれるようにと思っていたのかどうか、今となっては分からないが、とにかく近いところしか見えていなかった。

だから、「遠くを見たら、車は安定するよ」という教官の指示に従うのは、ちょっと怖かった。

それでも教官が言うのだからと、目線を上に向け、少し遠くを見てみる。

ボンネットの先、10メートルぐらいまでしか見れていなかったところを、恐る恐る100メートル先まで見るようにした。

すると、どうなったか?

車がフラフラと横揺れしなくなったのだ!

それだけで、車体が安定してラクに走れるようになったのだ。
気持ちにもグンと余裕が出てきた。

「目線を遠くに向ける」

たったこれだけのことで、そう、たったこれだけのことで、車体が安定し、スムーズに運転できるようになったのだ。

 

あれは、僕の中では、ちょっとしたブレークスルーになった。

その後も紆余曲折はあったが、路上試験にも合格し、学科試験もパスし、無事、免許をいただくことができた。

 

「目線を上げる」

 

そして、このアドバイスは、運転技術を向上させてくれただけではなかった。

仕事でもプライベートでも、悩んでいたり、迷っていたりするときは、間違いなく目線が物理的に下を向いている。

これからどうしたらいいだろう? と先のことを考えようとしていても、目線が下を向いていると、先のことを考えようにも考えられなくなっていた。

そのことに気づいたときは、意識して目線を上に向けるようにする。

そうすると、悩みモードから少し抜け出して、気持ちが安定してくるのだ。

 

もちろん、目線を上に向けることが、いつもすぐにできるわけではない。

下を向いたまま考え込んでしまうことも多々ある。

 

だが、このことに気づいてから、悩み続けることは減ったし、目線を上に向けたほうが将来のことも考えやすくなった。

 

「中々、悩みから抜けられない」

「中々、先の見通しが見えない」

 

そんなふうに思うときは、ぜひ実際に目線を少し上に向けてほしい。

視界が広がり、気分も変わり、見える世界が変わってくるのをきっとあなたも体験するだろう。