【エッセイ91】嫌いな「仕事」があるときは、バラバラにしてみよう

「今の営業の仕事、嫌いなんです。辞めようかどうか悩んでいるんですけど……」

20年に渡ってライフコーチングのプロとして300人を超えるクライアントさんの目標達成や課題解決のサポートを1対1の面談(セッション)で提供してきました。

コーチングでよくクライアントさんから出てくるテーマの一つが「仕事」。

仕事が順調で上手くいっていれば、テーマに上がることはまずない。
そう。コーチングで、この「仕事」をテーマに扱うときは、決まって上手くいっていないと当人が思っているとき。

「そうなんですね。営業の仕事が嫌いなんですね。ちなみに、営業のどんなところが嫌いなんですか?」

そうクライアントさんに問いかける。

「営業の仕事のどんなところが嫌いか、ですか?」

相手の話に耳を傾けて、具体的に掘り下げていく。

「そうです。営業の仕事っていう言葉を僕たちはよく使いますけど、実は営業の仕事なんて本当は無いんですよ」

「ん? コーチの言っている意味がよく分からないんですが……」

戸惑いながら、答えるクライアント。

「そうですよね、営業の仕事なんて無いって言ったら、『ちょっと何言ってんだ、こいつ?』って思いますよね。もう少し正確に言うと、複数の作業が集まったものを営業の仕事って言っているだけなんですよ」

「そういうことなら分かります。お客さんにアポイントを取るとか、商品の説明をするとか、クロージングをするとか、色々ありますね」

かつて自分が営業をしていたときのことを思いだす。

お客さんと直接、対面で話をするのは好きだったけど、アポイントを取るのが苦手で、いつも電話口ではビクビクしていた。
また、出張経費の精算がめんどくさくて、経理から「早く出してよ!」と、よくどやされていた。

やっていて楽しい作業もあれば、めんどくさいと感じる作業もある。
夢中になれる作業もあれば、できれば他の人にやってほしいと思う作業もある。

やっていて楽しい作業、面白い作業だけで仕事ができていたら最高だが、実際はなかなかそう上手くはいかない。

シュウマイの肉は好きだけど、上にちょこんとのっているグリーンピースは苦手というのと、ちょっと似ているかもしれない。

クライアントさんに話を続ける。

「そうやって、営業の仕事を、もう一度、一つ一つの作業に分解してバラバラにしていくんです。それから、一体どこが嫌いなのか、何が苦手なのかを明らかにするんです」

「確かに、そこまで具体的に細かくは考えていなかったですね。そうだなぁ、好きじゃない作業は……」

仕事を作業に分解して、苦手なこと嫌いなことを明らかにした後は、その作業をどうするか一緒にクライアントさんと考える。

考えるポイントは3つ。

①減らすことはできないか?
②いっそやめてみることはできないか?
③代わりにやってくれる人はいるか? 

だが、クライアントさんの中には、「いや~、こんな仕事、みんな嫌いでしょ、誰もやりたい人なんていませんよ~」という人もいる。

自分が嫌いなことは、他の人も嫌いだと思うのも無理はない。
僕自身も長年、そう思っていた。

先にも書いたが、僕自身は経費精算や帳簿をつけるといった細かいお金の管理というのがそんなに好きではない。(実際、経理は人に任せている)

だが、ある異業種交流会で出会った一人の女性と自己紹介で、どんな仕事をしているのか聞いたときのこと。

「私、経理の仕事をしてるんですけど、数字を見るのが大好きで、帳簿をつけることも大好きなんです!」

あぁ、世の中に、こんな人がいるのか! と、いい意味でショックを受けたことを今も鮮明に覚えている。

そう、自分が嫌いな作業だからといって、世の中の人全員が嫌いなわけではない。
だから、他の人に依頼するのは、決して、イヤな作業を押し付けるということにはならない。

そんな話をすると、「嫌いな作業も、自分がやらないといけない。他の人には頼めない。迷惑をかけてしまう」と思っていた人も、ちょっと気持ちがラクになったりする。

嫌いな作業を洗い出し、いかにそれを減らすかを考えてもらった後は、やっていて楽しい作業、面白い作業を増やすことも一緒に考えていく。

嫌いな作業を我慢してやり続けるのは、忍耐力を鍛えるのにはいいかもしれない。
が、しんどくて、つらいのに、義務感で嫌々やり続けているほうが、周りは見ていて辛くなる。
誰も、あなたにしんどい思いをして仕事をしてほしいとは思っていない。

もし、あなたが「今の仕事、イヤだな~」と思ったとしたら、どうか少し時間を取って、仕事の中にどんな作業があるのかを分解してみてほしい。

そして、嫌いな作業、普通の作業、好きな作業に分類してほしい。

ほんのちょっと工夫するだけで、仕事はもっと楽しいものになるし、面白いものになる。

楽しんで仕事をしているあなたの姿を見たい人は、きっと大勢いるだろう。
あなたの職場の仲間も、あなたの家族も。