【エッセイ98】「10年日記」を続けると……

「日記を10年続けることができた人間は何かを成し遂げた人である」

これは、平民宰相と呼ばれた原敬(はらたかし)首相の言葉。

日記を書き始めたのは、この言葉に感銘を受けたのがキッカケでした。

最初は、普通の手帳にその日あったことを書いていたが、あるとき「10年日記」なるものがあることを知りました。

「一冊に10年分の日記を書けるのか!」

10年も続けられるかどうか心配でしたが、それまでに手帳に1年ほど書いてきたこともあり、清水の舞台から飛び降りるつもりで購入。

菓子箱のようなしっかりした箱に入った10年日記。

「今、二十歳だから、1冊書き終わったらちょうど三十歳か~」

10年後の未来なんて、想像つかない。

それでも「日記を10年続けることができた人間は何かを成し遂げた人である」という言葉に励まされながら、「10年日記」の記念すべき第1日目となった1993年1月1日には、こう記している。

「今日からこの日記をつける。10年間書こうと思うとしんどいが、今日一日、今日一日の心境で書き続けていきたい」

・・・あれから29年が経ちました。

計算すると、昨年(2021年)末で、10585日。
いつの間にか、1万日を超えていました。

何かを成し遂げたかどうかは、正直、まだわかりません。

が、少なくともここまで日記を書き続けることができたのは、何かしらの価値を感じたからなのは間違いない。

その価値とは何か?

29年書き続けられた価値とは、

「一日一日の区切りがつく」

という、まさに日記をつけることそのものでした。

 

区切りは竹の節のようなもの。

大木でもポッキリ折れてしまうような強烈な風でも、竹はしなやかに受け流して、案外大丈夫だったりします。

竹がなかなか折れないのは、根っこがしっかりしているのもあるが、節の存在も大きい。

 

日記を書くことは、竹の節を刻むように一日一日の区切りをつけること。

「なんとなく一日が過ぎてしまったなぁ。今日は何もできなかったなぁ……」

そんな気持ちになったことが、誰しも一度や二度はあるでしょう。

でも、何もやっていない日なんて、本当は一日もない。
ただ、振り返らなかったら「今日は何もできなかったなぁ……」と漠然と思ったまま一日が過ぎてしまうかもしれない。

起きている時間をすべて有意義に使えることは滅多にないけど、ちょっとでもやれたこと、できたことを日記に書いておくと、時間を無駄にしてしまったという後悔は減るでしょう。この積み重ねは大きい。

ときには、「今日は最悪だ……」と思う日もあるでしょう。

けれども一日一日、日記を書くことで区切りをつけていると、「明日はこうしよう」と気持ちを切り替えやすくなります。引きずりにくくなります。

ここまでは、普通の日記でも得られる価値でしょう。

けれども、29年も日記を続けられたのは、普通の日記ではなく「10年日記」だったからというのは、間違いありません。

「10年日記」では、1年前、2年前の同じ日に何があったか、誰と会ったか、何をしたか、どう思ったか、どんな気持ちだったかが、ページを開くたびに目に飛び込んできます。

そうすると、「最近、調子が悪いな~」「どうもうまくいかないな~」と落ち込むことがあっても、これが永遠に続くわけではないということが、過去の日記を見ればすぐにわかるわけです。

感情のアップダウンがあっても、その波が大嵐にならないのは、「10年日記」を書くことで、身体にバイオリズムがあるように、心にもバイオリズムがあることがわかるからでしょう。

そう。

一言で言うと、人生を俯瞰して見ることができる、ということ。
自分を客観視できると言ってもいい。

こう書くと、「自分も10年日記を書いてみたいけど、10年も続ける自信はないなぁ。毎年、正月に『今年こそは!』と思ったけど続かなかったし……」

と、「10年日記」に興味はあるけど、続けられるかどうか考えると、ちょっと、いや、かなり躊躇するという人もいるでしょう。

私自身、「10年日記」を始める前に、普通の手帳に毎日の出来事を1年以上書き続けることができたので、「これなら続けられるだろう」と購入した経緯があります。

なので、興味ある人は、まずは大学ノートに一行でもいいので、毎日書くことから始めてみてください。

最近は、日記アプリもたくさん出ています。アプリのほうが続けやすいという人もいるでしょう。だから、別に紙の日記にこだわる必要はないと思います。

とは言え、紙の日記の良さは、一覧性です。
特に「10年日記」は、一日一日が着実に積み重なり、最後には1冊に約3650日分の記録が残ります。

10年分の日記をパラパラと見直すことを、ちょっと想像してみてください。

10年という歳月には、楽しかったこと、嬉しかったこともあれば、苦しかったこと、悲しかったこともあるでしょう。なかには、生きているのが辛いと感じる日もあるかもしれません。

それでも振り返ると、苦しい時期の後には穏やかな日がまたやってくるのが分かるでしょう。

「夜明け前がもっとも暗い」という格言が、本当にその通りだ、真実なんだということが、自らの日々を振り返ることでリアルにわかります。

「人生、色々あるけれど、きっとこれからも大丈夫だろう」

自分の歩んできた人生を肯定し、これから歩む人生を信頼する。

それが、「10年日記」を29年書き続けて改めて思う『本当の価値』です。