ネタバレ注意です!!!

アミストラはかく語りき 第22回目に取り上げる映画は、ロバート・ゼメキス監督作品の「フライト」です。

 

フライト

 

主役を務めるのは、オスカー俳優のデンゼル・ワシントン。

クールで誠実、そんな印象が強い彼が”どうしようもない男”を好演しています。

では、あらすじをどうぞ (映画.com より)

 

フロリダ州オーランド発、アトランタ行きの旅客機が飛行中に原因不明のトラブルに見舞われ、高度3万フィートから急降下を始める。機長のウィトカーはとっさの判断で奇跡的な緊急着陸に成功。多くの人命を救い、一夜にして国民的英雄となる。しかし、ウィトカーの血液中からアルコールが検出されたことから、ある疑惑が浮上し……。

 

「彼は英雄か 犯罪者か」

キャッチコピーからはサスペンスの匂いが漂いますが、本作品はアルコール依存症を真正面から扱ったヒューマンドラマでした。

飛行中のトラブルにより、乗客乗員の命が絶望的だとみられた中で、デンゼル・ワシントン扮するウィトカー機長の卓越した操縦技術により、草原での緊急着陸に成功。

犠牲者も最小限に留めることが出来ました。

一躍、英雄となったウィトカーでしたが、彼には後ろめたい事実が潜んでいました。

検査の結果、彼の体内からアルコールとドラッグが検出されたのです。

それが明るみになると、過失致死罪の適用を免れず、懲役刑をくらうのは間違いない状況となりました。

飛行機会社が雇った弁護士がその事実のもみ消しに奔走する中、ウィトカーも一度は自分の意思で断酒することを決意し、自宅にあった酒を全て廃棄するのですが・・・。

私にもアルコール依存症となった知人がいたので理解できるのですが、自分の意思で断てるほど甘くはありません。

ウィトカーも例外ではありませんでした。

さらに、アルコール依存症が壊してゆくのは身体だけではありません。

人生そのものを容赦なく破壊していきます。

 

ウィトカーもお酒が原因で既に家庭が崩壊し、元妻や息子からも愛想つかされています。

しかも、本来なら大勢の命を救ったにも関わらず、フライト前日の深酒とドラッグのせいで、英雄どころか犯罪者として刑務所行きが危ぶまる始末です。

弁護士が奔走したおかげで、懲役は免れそうな雲行きとなりました。

残るはウィトカーへの尋問がなされる聴聞会、ここで失態が無ければ、英雄のままに逃げ切れそうでした。

ここでアルコールに手を出してしまうことは、全てを失うことを意味していました。

そんなこと、ウィトカーは百も承知です。

それでも魔の手にあえなく屈してしまうのです。

 

アルコール依存症をあまり知らない人が観ると、ウィトカーの行動は到底理解できないでしょう。

たった1日、しかも人生を決める1日でさえも我慢できないのか。 なんて意思の弱い奴なんだと。

ここは誤解の多いところですが、アルコールを始めとした依存症の問題は、人間の意志力で対処できるものはありません。

依存症の人はすでに、脳も侵されているからです。

絶え間なく要求してくる脳からの指令、人間のはかない意思力なんて吹けばすぐ飛んでしまいます。

今この瞬間、お酒さえ飲めればもうどうなってもいい、そんな精神状態に陥ってしまうのです。

 

「飲まないと言ったら飲まない。辞められるよ。自力で」

「俺は好きで酒を飲んでいるんだ! 俺が酒を選んだんだ!」

 

これらウィトカーのセリフは、アルコール依存症の典型的なセリフです。

友人で、アルコール依存症の方々の支援に少し携わったことがある人がいるのですが、その方によるとこうです。

「いわゆる立派な職業で、自分で何でも解決しようとする人ほどタチが悪い。」

自分で人生を切り開いてきた感がある人にとっては、お酒を1滴も辞められない意思の弱さ、情けなさに認めること自体が、何よりもの苦痛を伴うでしょう。

いつでも辞められると現状を否認する限り、アルコールの泥沼から抜け出せません。

結局、入退院を繰り返してしまうと友人は言い切ってました。

 

「俺は人生ではじめて、自由になった」

 

ラストで、いみじくも酒を断つことが出来たウィトカーが、解放感を味わいながら語るセリフです。

 

アルコールの問題から目を背け続けたウィトカーでしたが、再生への一歩を踏み出せたのは、アルコールに対して、全面的に白旗をあげたことでした。

 

 

依存症の人に限らず誰しも、自分の脆さや弱さを真正面から受け入れるのは、非常に痛みを伴うでしょう。

しかし、その痛みがあるからこそ、人間に対する真の理解と慈愛が育まれるのだと私は思います。