アミストラはかく語りき 第18回目に取り上げる映画は、第86回アカデミー賞の脚本賞受賞作「her/世界でひとつの彼女」です。

 

her

 

前回の「トランセンデンス」に続き、今回も人工知能をテーマにした作品です。

 

まずは、あらすじをご覧ください。

yahoo!映画より)

 

近未来のロサンゼルスで、セオドア(ホアキン・フェニックス)は相手に代わって思いのたけを手紙にしたためる代筆ライターをしていた。
長きにわたり共に生活してきた妻キャサリン(ルーニー・マーラ)と別れ、悲嘆に暮れていた彼はある日、人工知能型OSサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)と出会う。
次第にセオドアは声だけで実態のない彼女の魅力のとりこになり……。

 

この映画も様々な視点から読み解ける作品ですが、テーマの一つは「肉体のない存在との恋愛は、果たして成立するのか?」というところだと思います。

主人公セオドアが恋をした相手、人工知能型OSサマンサとは、iPhoneのSiriみたいなものだと思えば想像しやすいでしょうか。

現在のSiriに話しかけても、トンチンカンな答えが返ってくる方が多いですが、サマンサは違います。

打てば響く受け答え、気の利いたジョーク、セオドアへの気遣い・・・まるで血の通った人間と会話しているようです。

 

セオドアとサマンサは会話を重ねるにつれて、お互いに恋愛感情を育んでいきます。

街を歩きながら、屈託のない笑顔でコンピュータに語りかけるセオドアの表情は、まさに恋する男です。

しかし、通常「誰かに恋をしている」の「誰」は、「肉体を持った生身の人間」が言うまでもない大前提でしょう。

中にはアニメの主人公に本気で惚れる人もいますが、やはり偏見の目でみられがちです。

 

セオドアが元妻のキャサリンに、”現在の相手”についてイキイキと話した時の反応が物語っています。

 

コンピュータとつきあってるの!? でも、すごく情けないわ。リアルな感情と向き合えないなんて。

 

いくらセオドアがサマンサが他のコンピュータと全然違う存在だと説明しても、拒絶反応がかえってきます。

 

私がキャサリンであっても、同じような反応をすると予想しますが・・・。

 

しかし、です。

肉体を持つ人間でさえあれば、もうソレだけで、れっきとした恋愛と見做されるのでしょうか。

 

キャサリンが、かつての夫だったセオドアにこんな不満をぶちまけます。

 

いつもあなたにソレを求められた。
明るくて活発で、いつも笑顔でハッピーなLAのおくさん。タイプが違うのよ。

 

キャサリンの言葉通りだったかどうかは別としても、少なくても彼女は常に、イメージの中の自分を求められたと感じてたのでしょう。

目の前で、絶えず変化する生身の相手ではなく、自分の脳内に閉じ込めたイメージでしか、相手をみていないのであれば・・・

リアルとバーチャルの差は、どこにあるのでしょうか?

 

もしくは夫婦が何らかの事情で長年離れ離れで暮らし、会話する手段が電話だけだったとしましょう。

声によってだけ愛を確かめ合うという点では、セオドアとサマンサと何ら変わりません。

違うのは、ただ一点です。

「相手は実体のある存在だ」という、過去の記憶があるかないかだけでしょう。

 

「肉体のない存在との恋愛は、果たして成立するのか?」

冒頭で出したこの問いを突き詰めていけば

「愛とは何か?」

ここから問い直さなければいけないのかもしれません。

 

コンピュータが創りだした人工知能サマンサと、中年セオドアの愛は本物かどうか。

明確な答えは、映画の中でも示されてません。

しかし、コンピュータにしきりに語りかけながら、旅を共に楽しむセオドアの心からの笑顔、突然サマンサとコンタクトが取れなくなったセオドアの狼狽ぶりは、まさにリアルそのものでした。

 

最後に、元妻キャサリンに嫉妬したサマンサが、セオドアに語るセリフを紹介します。

 

彼女には肉体がある。あなたたちと私は何もかも違うんだって。
だけど何か共通点があるんじゃないの?って思い始めたの。

ようは、みんな宇宙の物質。
つまり同じ毛布の下にいるような感覚なの。柔らかくて、フワフワの

 

もし地球外生物が彼らの様子をみたとき、セオドアとキャサリン、セオドアとサマンサも、同じ物質が同じことをしているようにしか見えないのかもしれません。