アミストラはかく語りき 第8回目で取り上げるのは「鑑定士と顔のない依頼人」です。

※このコラムはストーリーを語ってしまうので、ネタバレあります。
 特にこの映画はサスペンスですので、ご注意を。

 

鑑定士

 

普段はサスペンスやミステリーにはあまり興味ないのですが。

「リピーター続出」
「衝撃のエンディング!」

こんな見出しが踊ると、どうにもこうにも期待してしまいます。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーー!」

華麗すぎるどんでん返しで、私をノックダウンさせたサスペンス映画の金字塔「ユージュアル・サスペクツ」を凌ぐ作品ではないか!!と。

そんな期待を抱きながらいくつかのサスペンスを観てきたものの、金字塔を超える映画にはなかなか出会えません。

本作品もクライマックスに向けて驚きはあったものの、私にとって謎解きという点では薄めでした。

 

それでも観た後に、何かが残りました。

ここで、軽くあらすじをご紹介します。(yahoo!映画より)

 

天才的な審美眼を誇る美術鑑定士ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、資産家の両親が遺(のこ)した美術品を査定してほしいという依頼を受ける。
屋敷を訪ねるも依頼人の女性クレア(シルヴィア・フークス)は決して姿を現さず不信感を抱くヴァージルだったが、歴史的価値を持つ美術品の一部を見つける。
その調査と共に依頼人の身辺を探る彼は……。

 

長年、生身の女性との触れ合いを拒否してきた老年の主人公ヴァージル。

いつも無表情な彼が唯一、頬をゆるませるのは、自宅の隠し部屋の壁にビッシリと敷き詰められた肖像画の女性達に見つめられる時でした。

 

そんな彼が、決して顔を見せない女性の依頼で、女性宅に残る美術品の鑑定を引き受けたときから、運命が変わっていったのです。

人間には興味がなかったはずの彼が、次第に依頼人の女性クレアに心惹かれるようになります。鑑定士の仕事まで差支えがでるほど、彼女にのめり込んだ彼でしたが・・・

やがてそれは、救いようもない裏切りへと繋がっていくのです。

 

美術品だったら本物と贋作をみごとに識別する天才鑑定士が、彼女の本性を見抜けませんでした。

呆然としながら打ちのめされていくヴァージルの姿をみて、私も言葉では言い表せない虚脱感を味わいました。

初めての恋にうつつを抜かした初老男性の悲劇として観ると、もう絶望という言葉しか思い描けません。

 

それでも、この映画から一つ問いかけが浮かびました。

詐欺だったとはいえクレアと出会い恋に落ちたことで、彼の人生でそれまで感じてこなかった、ときめきや安らぎ、戸惑いや喜びといったビビットな感情とを味わうことが出来たのです。

洗練されてたけどモノトーンだったヴァージルの人生に、鮮やかな彩りが加わったかのようでした。

もし、彼が詐欺に出会わなかったとしたら、財産は守られ、傷つくこともなかったでしょう。

しかし、誰とも血の通う交流が無いまま、心ときめかすことが無いまま、人生は終わるところでした。

 

もし、もう一度やり直せるとしたら・・・、人生の終わりにそう問いかけた時、彼はどちらを選ぶでしょうか?

 

劇中、こんなセリフがありました。

 

贋作の中にも真実がある

 

初めから仕組まれていた贋作(詐欺)の中にも、たった一つだけ確かな真実はあったのです。

ヴァージルがクレアを愛したこと

デカルトの有名な言葉「我思う故に我あり」に通じるものを感じますが、全てが幻想であったとしても、彼女を愛する自分(の思い)だけは揺るぎなく存在していました。

英題は「The best offer」

いくつか意味があるようですが、「最高の値付け」「最高値の入札」といった意味合いで使われることが多いようです。

全てを喪ってしまっても、全人生を捧げようと思った相手と出会えたこと自体、彼の心の中から失われることはありません。