アミストラはかく語りき 第17回目はジョニー・デップ主演作「トランセンデンス」です。

インセプションなどで知られるクリストファー・ノーラン監督が製作総指揮を務めたことでも話題となりました。

 

トランセンデンス

 

最初に言っておきますが、私にとってこの映画は、さほど良かったとは思えるものではありません。

しかし、私なりに考えるところがあったので、映画のテーマからはかなり外れながら(笑)、大いに語ってみたいと思います。

とはいうものの、映画に沿って話をしますので、最初にあらすじをご覧ください。シネマトゥデイより

 

人工知能PINNの開発研究に没頭するも、反テクノロジーを叫ぶ過激派グループRIFTに銃撃されて命を落としてしまった科学者ウィル(ジョニー・デップ)。
だが、妻エヴリン(レベッカ・ホール)の手によって彼の頭脳と意識は、死の間際にPINNへとアップロードされていた。
ウィルと融合したPINNは超高速の処理能力を見せ始め、軍事機密、金融、政治、個人情報など、ありとあらゆるデータを手に入れていくようになる。
やがて、その進化は人類の想像を超えるレベルにまで達してしまう。

 

妻エブリンの手によって、ウィルの頭脳と意識をコンピューターへのアップロードに成功しました。

彼は電脳空間の中で、世界中のあらゆるデータと繋がりながら、人間では想像つかない知能を手に入れたのです。

人の命をも簡単に救うことができる、いわば「神」とも呼ぶべき全知全能の存在になるのですが、かつての仲間だった科学者たちやFBIに危険視されるようになります。

 

人間は理解できない物を恐れる。

 

ウィルが、妻エブリンに幾度となく告げるセリフです。

 

超越-トランセンデンス-したウィルの存在は、人間からすると本能的な脅威以外の何者でもありません。

今までのSF映画だと、人間に従ってきた人工知能が暴走し、地球全体を支配しようとするのですが、この映画はそこが全く違っていました。

 

電脳空間を支配するウィルの目的は、ただ一つ。

 

全く新しい考えが人類が生き残るためには不可欠である。
アインシュタインの50年以上前の言葉です。
現在社会がまさにそうです。
人工知能が様々な問題を解決します。
病気だけでなく貧困や飢餓をなくし、人類に明るい未来をもたらすでしょう。

 

これは、妻エブリンが大勢の聴衆の前で語った言葉です。

 

エブリンは、世界を善きものに変えたかった。

その願いを叶えてあげようとウィルは、自分の意のままに動く人間を徐々に増やし、彼なりに地球を救おうとしたのです。

映画では、志半ばでエブリンとウィルの願いが叶わなかったのですが・・・

 

しかし、私の中で命題が残りました。

彼らが描く善き世界が実現できたとしても、私達は幸せに生きられるのでしょうか。

 

映画の中では、ウィルが科学のチカラで、不治の病の人達をいとも簡単に治癒していきます。

その流れでいくと、ウィルが支配する世界では、病気は根絶できるかもしれません。

そして、私も一人の人間として、不治と言われた病の治療法は確立してほしいし、病に苦しむ人達の治癒を求める気持ちはとてもあります。

 

ただ、どんな病気でも治癒可能、つまり病気から解放さえできれば、人は心身ともに健やかに生きていけるのでしょうか。

 

身体の病気は、ストレスの表現という説もあります。

もちろんそれが全てとは思いませんが、病気というサインで、無理な生活習慣や心の危険信号が分かる場合があります。

人生を変えるチャンスにもなった人もたくさんいます。

 

たとえ病気を根絶できたとしても、ソレを生み出した根本的な原因は見過ごされたままです。

そんな状態で、病気だけを取り上げてしまったら、ストレスの持って行き場はどこに変わるのでしょうか。

精神に負担を強いるのでしょうか。

すると今度は、精神の不調をも完全に治癒する人工知能が必要となるのでしょうか。

 

もしも、です。

この映画で描かれたような、人間の意思がインストールさせた形での人工知能ではなく、完全にコンピュータの世界で偶発的に生まれた人工知能が意識を獲得し、恐るべきチカラを手に入れたとしたら・・・

人間を意のままに支配する世界になるのでしょうか。

 

人間のように肉体という制限も五感による認識もなく、価値観もない存在が人間世界を観たとしたら・・・

 

案外、何もせず観察するだけという可能性も否めません。

 

人間の価値観や感情、善悪の概念までインストールされたら別かもしれませんが、純粋に意識だけだとすると

「これでいいのだ」

全肯定のまま、生きとし生けるものたちを見守るのではないでしょうか。

 

人間の感情は非論理的で矛盾に満ちている。人を愛する一方で、その行動を憎んだりする

 

ウィル夫妻の友人、マックスのセリフです。

 

矛盾だらけで不完全な人間たちの価値観からなる「善き世界」を半強制的に実現しても、また別の矛盾や不完全さを生み出すだけでしょう。

 

もし本当に世界を善きものにしたいのなら・・・

自分の中にある矛盾や不完全さを認め、受け入れることから、まず始めないといけないのではないでしょうか。

 

ただし、そこを突き詰めていけば、結論は「これでいいのだ」に至るのかもしれません。

あるいは、今の自分では全く考えも及ばない結論に繋がるのかもしれませんが・・・。

 

そんな命題を考えるきっかけとなった映画でした。