【コラム85】悩みがあるからと言って。。。

「今日のセッションは、何について話したいですか?」

毎回のコーチングセッションで最初にクライアントに尋ねる質問。

このとき、クライアントが答えることの大半は、今、クライアントが抱えている悩みや問題といったうまくいっていないと思っていること。

もちろん、達成したい目標に向けて、さらに何をしていくかということを話す場合もあれば、「特になにもテーマはないな」という場合もある。

 

が、順調にいっている、うまくいっているということについては、どんどん自分で考えて進んでいくので、特にセッションで取り上げる必要がないと思うからだろう。あまり、その話題になることは少ない。

 

だから、コーチングセッションの仕組みとして、クライアントが話すことは、どちらかというとうまくいっていないことに焦点が当たるようになっている。

ここにコーチが陥りやすい罠がある。

 

クライアントが、うまくいっていないと思っている課題や問題を話すからといって、その人の人生全てがうまくいっていないわけではないこと。

むしろ、セッションで語られていないことの大半は、うまくいっていることだったりする。

それを忘れて、コーチがクライアントのできていないところ、欠けているように見えるところだけに焦点を当てて、クライアントのことを「うまくいってない人」とみなすとおかしなことになってくる。

 

これは、コーチとクライアントの関係に限らない。上司と部下、先生と生徒、親と子供でも同じだろう。

人は基本的に、欠けているところに目が行きがちだ。

視力検査のときにアルファベットのCのような図を見て、白く空いているところがどこにあるかを指さす経験をしたことがあると思う。

視力検査と同じく、わずかに欠けている白いところに焦点がいって、大半を占める黒い部分には目がいかない。

クライアントもまた、自分の人生について、そして自分自身について、欠けているところに自然と目が向いている。そして、そのことに気がつかないことが多い。

欠けている部分は確かにあるかもしれない。しかしそれは、一部分であってすべてではない。

だが、欠けているところにしか焦点が当たらないと、それが一部ではなくすべてだと思い込んでしまう。

 

コーチの役割は、欠けているように見えるところも、すでにうまくいっているところも、どちらも含めて全体的にありのままの相手を見ること。

そんなふうにクライアントの姿を見ることができたとき、クライアントもまたクライアント自身のありのままの姿に気づくのかもしれない。