【エッセイ94】書くことがない? それは素晴らしい!

 

「うーん、今週の記事、何を書こう……」
 
数年前に、ある文章講座を受講していたことがあります。

そこでは、文章の書き方を学ぶだけでなく、
実際に毎週、記事を投稿するように促されました。

2000文字前後の記事を書いて、締め切りまでに投稿する。
投稿するとフィードバックをもらえ、出来が良いとサイトに掲載されることもあありました。
 
毎週毎週書いていたら、習慣になったのではないかと思うかもしれません。
すらすらとラクに書けるようになったと思うかもしれません。

確かに受講前よりも、書くことへの抵抗は減りました。
が、書く前は毎回、重い気持ちになるのは変わりません。

今週は描けるだろうか? 
と原稿を落とさないかどうか心配で胃が痛む、週刊連載の漫画家さんの気持ちがちょっとだけ分かった気がしたのを覚えています。
 
今も、書く前は不安になります。
 
「いい文章が書けるだろうか?」
「わかりやすい文章が書けるだろうか?」
「今回は掲載してもらえるだろうか?」
 
こういった疑いの声が自分の頭の中に浮かんでくると、自信をもってYesと答えられない自分がいます。
 
だから書き始めるまでは時間がかかる。
 
方法論は大事です。
まったくどう書いたらいいかわからないでは、話にならない。
 
ですが、いくら方法論を頭に詰め込んだところで、残念ながら「書ける!」という自信にはつながりません。そのことが痛いほどわかりました。
 
だからといって、自信がないから書けないわけでもないのです。
 
最初から伝えたいメッセージがあるときは、比較的スラスラ書けます。
 
とはいえ、毎回毎回、そんなメッセージが簡単に浮かんでくるわけではないし、
書き続けていると、ネタもストックも枯渇します。
 
でも、実はこうなった瞬間がチャンスなんだと、今ならわかります。
 
ネタがつきたときこそ、もう一段、深いところに潜るチャンスだと。
普段、意識していない想いにアクセスするチャンスだと。
 
昔、勤めていた会社で営業をしていたときのことです。
今月の目標達成のメドが立ち、さらに見込み客もできると、そこからの売上は来月に回そうとしたことがあります。営業マンあるある話ですね。
 
ところがあるとき、そのことについて上司から指摘されました。
 
「赤木君、確かにそうしたい気持ちもわかる。今月の目標は達成できたし、来月はまたゼロからスタートだから、来月分に回せばラクになると思うだろう」
 
「でも、そうじゃないんだ。あえて全部今月の売上にして、来月をゼロからスタートすると、違うんだよ」
 
上司も経験から言っているので、なぜ違うのかを納得いくように説明を受けた記憶はありません。
 
ですが、今なら上司が言ってくれたことが、よくわかります。
 
あえてゼロからスタートしたときこそ、自分の持っている力がフルに発揮されるということを。
 
そして、ゼロからでもできるんだという自分への信頼が高まるということを。
 
そのことを上司は経験から教えようとしてくれていたのでしょう。
 
もちろん、ゼロからスタートするのは怖いです。
だから、上司の言うことは分かっていてもなかなかその通りすることはできませんでした。
 
でも、来月の見込みをゼロにしたときのほうが、不思議と翌月の目標を達成できたことは、今でも覚えています。
 
「来週は投稿できるだろうか?」
 
こう考えると、毎回、胃が痛む。
頭は不安で不安で仕方がない。
 
でも、なぜかそんなときのほうが、自分でいうのもなんですが、思いがけず良い文章が書けたりするのです。
 
子供が小学校に入学するとき、親は「友達ができるかしら?」「勉強についていけるだろうか?」と心配するかもしれません。
 
でも、当の本人は、案外何ともなく、友達と遊び、勉強も楽しく取り組んでいたりします。
親の心配のほとんどが取り越し苦労であるかのように。
 
これからも、毎回毎回、「書けるだろうか?」という不安が湧いてくるでしょう。
何年書き続けたとしても、自信はつかないかもしれません。
 
でも、それでいい。
いや、それがいい。
 
能力を開発するというのは、今持っている力をただ使うことではない。
普段は使えていない、いわば封印された力を表に出すこと。
 
そして、封印されていた力が解放されるのは、追い込まれたときと相場は決まっている。
そう、ヒーローの必殺技と同じ。
ウルトラマンのスペシウム光線や仮面ライダーのライダーキックが必殺技なのは、強敵に追い詰められるかだ。
 
火事場のクソ力ではないが、追い詰められたときにこそ、眠っている力が発揮される。
潜在能力を開発するというのは、きっとそういうことなんだろう。
 
だから、これからも毎回、不安を感じながら、「どうしよう、書けるかな……」と胃が痛む思いをしながら書いていこうと思います(笑)。