【コラム90】なぜ「何が?」の質問が効果的なのか?
なぜ、『なぜ?』と聞くよりも『何が?』と聞くほうが良いとされているのか?
コーチングを習い始めた頃、教えられたことの一つは、
「なぜ?」と質問するのではなくて、
「何が?」と聞きましょう。ということでした。
その理由として、
「『なぜ?』と聞くと、人によっては責められたように感じて、心を閉ざしてしまい、相手との関係性が悪くなってしまうから『なぜ?』と聞くのはやめましょう。その代わりに『何が?』と聞くといいですよ」
と教えられたように記憶しています。
しかし、
なぜ、『なぜ?』ではなくて、『何が?』が良いのか?
『なぜ?』と聞くのは効果がないのか? ダメなのか?
という、そもそもの疑問は残ったままでした。
その後、NLPという心理学を習ったときに、
「5W1H(Who,Why,What,When,Where,How)の質問には、それぞれ相手の心のどこに届くか(表面から奥深くまで)違いがある」
ということを知って、「なぜ?」と聞くほうが「何が?」と聞くよりも相手の心の奥深くに届くので、否定形と一緒に使わないほうがいいということが理論的にもわかりました。
この「『なぜ?』と『何が?』問題」は、私の中では一応の解決を見ていたのですが、
あることをキッカケに、その奥深さをさらに実感することになったのです。
『何が?』という質問は、事実をあるがままに見る質問
よく、コーチングでは、
「ネガティブな捉え方を質問によって、ポジティブな捉え方に変える」
ということをします。
コップの中に、水が半分「しか」入っていないと思うか、それとも半分「も」入っていると思うかという話は、どこかで聞いたことがあるかもしれません。
確かにこの方法で、ネガティブな捉え方をして気持ちが悲観的になっていた人が、ポジティブな見方をすることで、気持ちが明るくなったり、前向きになったりすることがあるでしょう。
物事を「いいように」捉えるというやり方です。
このやり方がダメだとか、間違っているということを言いたいわけではありません。
そうではなくて、「何が?」という質問が、今まで自分が思っていた以上にパワフルな質問だったことに気づいたのです。
「なぜ?」という質問は、解釈を尋ねる質問ですが、
「何が?」という質問は、事実を尋ねる質問です。
事実を尋ねる質問が、なぜパワフルなのか?
実は、私たちが問題だと思っていることの大半は、事実をあるがまま見ることができていないことから生じています。
いや、事実をあるがまま見ることを避けているから問題が生じていると言ってもいいでしょう。
人間関係の問題も、仕事の問題も、世界中で起きているありとあらゆる問題も、おおよそ問題と名のつくものは、誰かが「これは問題だ」という解釈を通して見ているから、問題になっています。
「じゃあ、問題だと思わなければ、問題は無くなるのか?」
そんな反論が頭に浮かんだかもしれません。
問題だと捉えなかったとしても、その出来事そのものは残ります。
出来事そのものは、そのまま残るのですが、
出来事そのものを純粋にあるがままに見ることができたとき、
その出来事に対して何をすればいいのかが自ずと見えてくるのです。
もし、あなたの目の前で、誰かがパッと倒れたとしたら、とっさに「大丈夫ですか!」と声をかけて、手当てをしたり、自分で対処できなければ、救急車を呼んだり、他の人に助けを求めたりするでしょう。
「人が倒れた」という出来事を見て、手当てをする、救急車を呼ぶ、他の人に助けを求める。
そういった行為が自然と沸き起こってくるのと同じです。
あるがままの事実を見ることができたとき、人は何をすればいいかが自ずと分かる。
そして、この「何が?」という質問こそが、あるがままの事実を見ることを促してくれる質問だったのです。
私たちは、事実をあるがまま受け止めるということを難しく感じるときがあります。
私もありとあらゆるものすべて、あるがまま見れるようになりましょうと言いたいわけではありません。
ただ、もし今までよりも、ほんの少しでも、出来事をあるがまま見ることができるようになったなら、クリアな意識になり、何をすればいいかが自ずとわかるようになる。
コーチングが目指しているものが、そういうクリアな目で物事を捉えられるようになることであり、その時その場に応じた適切な行動を取れるようになること。
「何が?」の質問は、まさにそんな自分になるための質問ではないでしょうか。