気がつけば世界が変わっていた

「あれ? 少し聞きづらくなってる?」

母の耳が遠くなりつつあるのに気づいたのは、今から5年前。

当初は少し聞きづらい程度でしたが、聞こえの悪化は止まりません。

私が話しかける声は、どんどん大きくなりました。

なんども補聴器を勧めましたが、のらりくらりと拒否されたまま・・・。

診察の際、母の担当医が声を張り上げるまでになりました。

さらに孫(うちの娘)が真横で話しかけても、全く気づかなくなったのです。

そんなこんなを経て、ようやく母が身につける決意をしてくれたのは、つい最近です。

補聴器はメガネと違い、着用すればすぐ、違和感なく使えるワケではありません。

その人に合わせて、聞こえ方を調整する必要があります。

現在トレーニング期間中ですが、補聴器がある日常は、驚きに満ちているそう!

水道管から流れる水の音。お皿とお皿を重ね合わせる音。

それらが出す音のひびきが、とても耳障りというか、居心地が悪いと母は言います。

かつては無意識的に耳に入っても、聞き流していた音だったはずなのに。

この5年ものあいだ。母の世界から少しずつ音が消えていました。

それは、音のボリュームのつまみを、ほんのほんの少し回すかのよう。

その変化は微細すぎて、知らぬ間に音が消えていたことに気づかなかったのでしょう。

私は今、中年期まっさかり。

母の変化はこれからまさしく、自分にも起こりうることです。

母は白内障も患い、2年ほど前に手術しました。

白内障の症状は、視界が白くなる、もしくは黄色くなるなどが代表的ですが。

これも急に変わるのではありません。

日々、ほんの少しずつ視界の色味が変わり、脳もソレに慣れていくと言います。

本人が気づいたときには、すっかり色味が変わっているかもしれません。

自分が毎日、目に映る視界は、自分以外の人は見えないものです。

他の人と違っていても分かりません。

自分が意識しないあいだに、少しずつ何かがスライドしていても・・

急激な変化がない限り、本人にとっては「そんなもの」でしかありません。

気がつけば 自分がいる世界は、かつてとは違う場所だった・・・

これから起こりうる変化であること、ココロに留めておきます。