万引き家族

言うまでもなく、第71回カンヌ国際映画祭において最高賞であるパルム・ドールを受賞した話題作。

「朝比奈さん、コレを観に行って、感想を書いてみてぇ~。」
リクエストをいくつか頂き、それならばと劇場に乗り込んだのですが・・・。

「あなたはどう思うの?」
回転すしのよう、次々とスクリーンの前に廻ってくる、社会問題ネタのあれこれ。
言葉にならないモノが渦巻いて、私も誰かに代弁してもらいたい気持ちになりました。

古い一軒家に、ひしめきあって暮らす6人家族。家族それぞれに仕事はありますが、収入の柱は、樹木希林さん演じる初枝がもらえる年金です。それでも足りないので、治と祥太の親子が店から万引きをして、日々の食事や生活用品を賄います。

カビ臭い匂いが漂うなか、貧乏で猥雑だけど笑いが絶えない家族たち。しかし、昭和の大家族とは違って、彼らの間にお互いを踏み込ませない空気がありました。
やがて、ここに集う人たちの素性が明るみになるのですが・・・。

ここにいる家族たちは、血縁関係がありません。

夫がいる女性を奪ったり、実家に居場所がない女の子に声かけたり。
パチンコ屋の駐車場に置き去りにされた男児や、虐待で家の外に放置された女児を引き取ったり。

まさに万引きのよう、本来の家族からかっさらってきたメンバーの寄せ集めです。
ただし、本来の家族はすべてワケありでした。

「子供を産んだからといって、お母さんになれるはずはない。」
これも信代が言うセリフですが。

血のつながった家族の固い絆
そんなの所詮、幻想だと興ざめする彼らだからこそ キョーレツに求めたのです。
家族のぬくもりを。

  • グツグツ煮えた大きな鍋に一斉に群がり、アツアツと頬張り
  • 万引きしたシャンプーの銘柄が気に入らないと軽口を叩き
  • 花火が舞う空を一斉に見上げて、わーっと歓声をあげる。

「なんだろうね・・・。」
信代が家族について問われたとき、あふれる思いに言葉が追いつきませんでした。

まさに、そう。

血さえつながっていれば、家族と言えるのか
血がつながっていなければ 家族とは言えないのか

答えに窮する問いが、まっすぐ突き刺さります。

だとしたら、です。
血のつながりなど関係なく 温かく肩寄せあって生きる
彼らこそが本来の、いや理想の家族像なのでしょうか・・・・?

是枝監督は、明確な答えはだしていません。
ただ、私なりの意見はあります。

虐待されて育った信代。祥太とじゅりが実の子供だったら・・・どうでしょうか。
いざとなったら、祥太を置いて逃げようとする、責任感のない関係性だからこそ
一緒にいるときは、温かく接することができたかもしれません。

血でつながろうと 血ではつながらなくても
一人の人間を育てるということは、命をも引き換えとする 責任が伴います。

何があっても この子を育ててあげる
子供をちゃんと社会に送り出す
血でにじんだ決意こそが 子供と親自身をも育てていくのです。

万引き家族で出てくる彼らは それぞれに居場所を与え
今日のことを 一緒に笑いあえる 楽しさを享受していました。
しかし、明日を考えなくていい、生ぬるい環境のなかでは、やがて人は内部から朽ちていきます。

本来の家族は、きれいごとでは成り立ちません。
一人の人間の未来を預かるがゆえに、時には叱りつけるし、言い争いもします。

自分の人生に全力で関わってくる親の思いが、ときに道を逸れた子供をも、歩くべき道へと引き戻していくのです。

私たちではダメだ。
最後に信代と治がそう決断し、祥太と別れる決意を決めました。
治と信代が祥太のことを、我が子のように関わっていた 
そう自認しても、社会の網に引っかからない、責任がないところには成長はありません。

彼は、自分らのような人間になってはいけない。

祥太の未来を案じ、彼を手放してはじめて、治と信代はようやく、祥太の親になることができたのです。

家族、虐待、貧困、教育、負の連鎖、労働問題・・・
今回の「万引き家族」の中には、たくさんの問題提起が箱詰めされています。
観た人だれもに、何かひとつでもソゲが刺さるのは、是枝監督の手腕でしょうか。