このときのために生きてきた

今から10年以上前、弊社はまぐまぐ!から「好きを仕事に!」というテーマのメールマガジンを発行していました。

様々なジャンルにおいて、好きを仕事にした人たちにインタビューをし、その内容を掲載していたのです。まぐまぐ!にピックアップされた事もあり、一番多い時で、1万人近くの読者が登録下さってました。

月日が経ち、今は「好きを仕事にする」ことに対して、さほど拘っていません。ただ、今でも「好きなことを仕事にした人」たちの話を聞くのは好きです。

最近、好きを仕事に!の情熱が、ヤケドするほど伝わる本を読みました。

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)  前野 ウルド 浩太郎 著

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
表紙からして、バッタ博士の見事なコスプレっぷり。香川照之さんに負けてませんっ。

2020年、コロナウィルスで世界が大騒ぎになった最中に、アフリカからアジアにかけて、サバクトビバッタの大発生し、農作物に大被害をもたらしました。

虫が苦手なワタシは、草木がしなるほどタワワに群れるサバクトビバッタのニュース映像に、身体中で悪寒が走りましたが。なんとこの本の著者は、幼い頃からサバクトビバッタの大群に出会うのが夢だったそうです!

なぜそんな夢を抱いたのか・・その動機が衝撃的すぎて、目玉がぶっ飛びます。

「子どもの頃に、バッタの大群に女性が襲われ、緑色の服が食べられたという記事を読んで、自分もバッタに包まれてみたいと思っていたんです。」

人って本当に摩訶不思議です。

バッタに包まれたい・・・世界はだだっ広いとはいえ、そんな願望を抱く人がいるとは。
しかも子供のころの夢を叶えるべく、昆虫学者にまでなったのです!

はるばるアフリカの国モーリタニアに渡り、途方もなくバッタの大群を待ち続ける日々。当初は研究の成果が出ないまま、昆虫学者として生きる道すら途絶えそうになりました。

それでも諦めきれず、わずかなチャンスに喰らいつこうとする姿に、神様は微笑んでくれたのでしょうか。

夢にまでみたバッタの大群、著者の目の前を覆いつくす時がきたのでした。

「よし、行くぞっ」
私の指先は群れの先頭を差していた。我々は死闘に向けて走り出した。飛んでいくバッタを次々と追い抜いていく。幼少期にファーブルに出会い、昆虫学を専攻し、無収入にまってまでアフリカに残り続けたのはこの闘いのためだ。そう、私の人生の全ては、この決戦のためにあったのだ。

狂ったように、バッタを追い求める描写が続きます。

体に宿ったバッタ博士としての真価を遺憾なく発揮できている。私の本気を受け止めてくれる舞台がここにある。研究できることがこんなにも幸せなことだったのか。研究が心底好きだということをあらためて感じていた。


「このときのために生きてきた」
人生のなかで、心からそう思える瞬間があったとしたら・・・

そこへと至る道は、決して平坦ではありません。
いや、苦労に苦労を重ねても、そこへたどり着ける保証もありません。

その瞬間に身を置けるのは、長い長い人生のなかでの、ほんの一瞬。それでも、その一瞬のために、人生はあるのかもしれません。好きを仕事に!にこだわらなくなった私も、著者の前野 ウルド 浩太郎さんの姿に手放しで拍手を贈りたくなりました。

夢を追いかけるって、やはり素晴らしいっ~。
私よりさらに輪をかけて虫がキライな娘にもぜひ読んでもらいたいっ! 
情熱の1冊でした。