ワンチャンス

本作は実話をベースにしています。

しがない携帯電話の販売員から、幼い頃からの夢だった歌手に転向したポール・ポッツの半生が描かれてました。

彼が世界的に有名になったきっかけは、イギリスで放映されているタレント発掘オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』

パッとしない外見のポールが、予選で見事な歌声を披露したのですが、その模様がYoutubeなどの動画サイトを通して世界中に広がったのです。

 

生まれ持って兼ね備えていたものの中に、もちろん「才能」があります。
彼が持つ才能は、並外れた美しい歌声に間違いありません。

しかし、生まれ持って兼ね備えていたものにはもう一つの側面があります。
本人の特質や気質という点です。

幼い頃からポールは内気で引込み思案。その上、あがり症で、長年人とコミュニケーションを上手にとることが出来ませんでした。

一般的にはネガティブと言われる要素ばかりで、成長過程の中で克服すべきとされる気質かもしれません。しかし、彼は生まれ持った気質をほぼ残したまま、大人になっていきました。

何かにつけすぐに緊張し、夢にみたオーディション直前でさえ逃げ出そうとさえするポール。
繊細で敏感で、いつも心がふるえている彼だからこそ、彼の美声を通して、私たちの心を大いにふるわせてくれるのではないでしょうか。

映画の中盤で、彼が敬愛してやまないオペラ歌手パヴァロッティに歌声を披露する機会を得ました。憧れの存在を前に緊張しすぎてうまく歌えないポールに対し、「君はオペラ歌手になれない」と酷評します。

「観客の心を盗む図太さがない。」
その一言は、歌うことへの自信を木っ端みじんに砕き、歌手になる夢を封印しようとさえしました。

パヴァロッティの言葉どおり、自分の気質を克服する形で「図太く観客の心を盗む」ことはできませんでしたが。

繊細で気弱な、本来の彼のままで、世界中の人々の心に歌声を届けることができたのです。

生まれ持った気質を否定して、成長してゆく人は多くいます。
幼い頃はかなり内気だった私も、その一人と言えます。
(ついでに言うと、緊張しぃのあがり症なので、ポールの姿にはかなり親近感を感じました)

「ダイヤモンドになる原石の塊よ」
オーディション番組の審査員の一人、アマンダ・ホールデンはポールにそう告げました。

たとえ一般的にはネガティブに捉えられたとしても、本来生まれ持った気質こそが、磨けば光る原石ではないでしょうか。

そんなことを私に教えてくれた作品でした。