つかの間しか遺らない芸術
長い年月の風雪に耐え、今も多くの人を驚嘆させるもの
そんな芸術の多くは資産として認識され、天井知らずの値がつくものもあります。
世界中のどこにいても、同じ月を眺めるように
どの時代に佇んでいても 同じ絵画を愛でることができます。
資産価値はともかく、後世まで遺る作品を一つでも生み出したい・・・それは芸術家たちの切ない願いでしょうか。
しかし永遠にどころか、つかの間しか遺らないものをあえて素材に選び、心血注いで創り上げる芸術があります。
鳥取砂丘にある、砂の美術館。
ここに展示されているのは、砂像と呼ばれる、砂と水だけで作られた彫刻です。
毎年テーマが変わるのですが、今年のメインは北欧神話でした。
マッチ売りの少女、サンタクロース・・・
触れるとすぐに崩れそうなほど繊細な、砂という素材で、一つ一つの作品がどれも精緻に創られています。
肌さわりまで伝わる布の質感や、今にも喋りだしそうな生き生きとした表情など・・・砂と水だけで、ここまでリアルさを体現できるものか・・・圧倒としかいいようがありません。
どれだけ時間をかけて、丁寧に創り込んだとしても、です。
性質上、資産としてカタチでは残る芸術ではなく、展示期間をすぎるとあっけなく解体されます。
セミのよう 刹那に羽ばたいて すぐ土に戻っていく・・・
その砂像を目にするのは、たまたまその期間に出向いた人たちだけ
二度と再現できない、一期一会に永遠の美しさを刻み込む・・・その潔さは私の心を震わせました。
砂像というものは 名もなき人たちの生をそのまま表すかのようです。
自分が生きた証は 後世まで遺らなくても
それでも生涯かけて、砂像を彫り続けます。
砂が崩れそうになっても 思い通りにならなくても
触れ合ったひとたちだけが 世界でたった一つの有り様を目にするのです。
サンタクロースは 柔らかい眼差しを降り注いでくれました。
生きること それこそが 芸術そのものであるのだと、と。