さようなら、田中さん

当時、中学生だった子が書いた小説「さようなら、田中さん」が話題になっていることは、小耳にはさんでましたが。

ホロリと泣ける中学受験のお話も載っていると聞いたので、Amazonで購入したのです。

主人公・花実ちゃんが育つ田中家は、母子家庭。
経済的には苦しいなか、底なしに明るいお母さんと多感な花実ちゃんとで、貧乏を笑いに変えながら、母娘ふたりで楽しい日々を送っています。

西原理恵子さんの挿絵がホント、小説のテイストにハマりすぎ。

私も節約派の人間なので、スーパーの半額シールでテンションが上がるのはよーく分かります(笑)
銀杏は拾ったことはないですが・・・そんなに美味しいのなら、この秋、並木の下でゴソゴソしたくなりますわ。

タイトルにもなった「さようなら、田中さん」は、花実ちゃんのクラスメートである三上くんが主役のお話です。

優秀な姉と兄を持つ三上くんは、当然のことながら、親から中学受験を指示されます。
しかし悲しいかな、頑張って塾に通っていても一番下のクラスから上がらず、受験の結果も残念なことに・・・。

上のお子さんたちが優秀なだけに、末っ子の三上くんにも期待を寄せてしまう。
なかなか思い通りにならなくて、キーっとなってしまう三上くんのお母さんの気持ち自体は分かります。
私も、中学受験を親として経験しましたから。

しかし有名校でなければ意味がない、世間体を優先させる姿をみると、やりきれないものを感じます。

お母さんの期待に応えられなくて、追い詰められてしまう三上くんの気持ちにも胸が痛むのです。

たとえ残念な結果でも、3年間頑張ってきたことには変わらないのだから。
なぜ、労ってあげないのだろう。
合否に関わらず、中学受験してよかったというふうに持っていかないのだろう・・・。

私が三上くんの姉や兄ならば、強い口調で責め立てしまうかもしれません。

しかし、自分を人一倍責めていたのは、お母さんご自身だったのですね。
たぶん、そのままの三上くんを受け入れるべき、可愛そうと頭では分かっていても、どうしても荒ぶる感情に負けてしまう。そんな自分が情けない、けど、三上くんを責める言葉を抑えることが出来ないのでしょう。

有名校に息子が通う母であることに固執しつつも、やはり根っこにあるのは子供を愛する母の愛です。

三上くんのお母さんが、頑ななだけの教育ママで終わらせなかったところが、小説をよりリアルなものに仕上げたと思います。

「何が子供にとって一番大切なのか」
「何が何でも志望校合格」
「楽しい学校生活を送ってもらいたい」
「落ちても受け止めてあげたい」
「でも、この3年間は何だったのか・・・」

中学受験に挑むお母さんは、荒波のように揺れ動く気持ちに翻弄されながらも、日々の子供のサポートに勤しんでいるのです。

作者の鈴木るりかさんは、温かくも冷静に、大人たちの心情をキャッチしていたのではないでしょうか。

それを14歳の少女が鮮やかに書ききれることに、素直に尊敬してしまいます。
花も実もある才能を、この世界で存分に咲かせてほしいですね。